自然数はどこまでも小さくならない ~無限降下法と2014年九州大学第2問~ - 金沢市・野々市市・白山市の塾なら東大セミナー
2025.06.28一推し入試問題!

自然数はどこまでも小さくならない ~無限降下法と2014年九州大学第2問~


 

 

皆さんこんにちは。東進衛星予備校 金沢南校の北川と申します。

今月もブログのネタがありません。困ったときはどうするかといえば、大学入試問題を眺めてみるというのが鉄則になります。

そうしていると、まだ私の記事で扱ったことがないテーマがあることを思い出しました。ズバリ、「無限降下法」の話です。高校生のころ初めてこの証明方法を知ったときに感動し、また名前のカッコよさに打ち震えたものですが、まあそれは置いといて。

難関大受験者は知っておくと、時折有利にはたらく整数問題があります。今回は九州大学の問題をベースとして「無限降下法」やそれに類する証明方法について紹介します。

 

 


目次

1. 2014年九州大学理系第2問 ~(1)と(2)の解答~

2. 無限降下法 ~1より小さな自然数は存在しえない~

3.おわりに


 

 

1. 2014年九州大学理系第2問 ~(1)と(2)の解答~


 

今回扱う問題はこちら。

 

[問題]

以下の問いに答えよ。

任意の自然数aに対し、\(a^2\)を3で割った余りは0か1であることを証明せよ。

自然数\(a,b,c\)が\(a^2+b^2=3c^2\)を満たすと仮定すると、\(a,b,c\)はすべて3で割り切れなければならないことを証明せよ。

\(a^2+b^2=3c^2\)を満たす自然数\(a,b,c\)は存在しないことを証明せよ。

 

(3)こそが本質なので、(1)と(2)はサラッと流してしまいましょう。

 

(1)\(a\)は3の倍数であるか、3の倍数でないかのいずれかである。

\(a\)が3の倍数であるならば、ある自然数\(a’\)が存在して\(a=3a’\)と表せるので、\(a^2=9 a’^2=3(3 a’ ^2)\)は明らかに3の倍数。

\(a\)が3の倍数でないならば、ある自然数\(a’\)が存在して\(a=3a’±1\)と表せるので、\(a^2=9a’^2±6a+1=3(3a’^2±2a)+1\)は3で割って1余る数である。

以上より任意の自然数\(a\)について\(a^2\)を3で割った余りは0か1である。

(上記の結果から、特に、\(a^2\)が3の倍数であることと\(a\)が3の倍数であることは同値であるということに留意したい)

 

(2) 問題中の仮定より、\(a^2+b^2\)は3の倍数である。

ここで(1)より、\(a^2\)も\(b^2\)も3で割った余りが0または1である。3で割ったあまりについてすべてのパターンについて考察すると、\(a^2\)も\(b^2\)も3で割った余りが0である場合のみに限って\(a^2+b^2\)は3の倍数となる。

\(a^2\)も\(b^2\)も3で割った余りが0であるというのは、これもまた(1)より\(a,b\)がともに3の倍数であるということなので、ある自然数\(a’,b’\)が存在して\(a=3a’,b=3b’\)とあらわせる。したがって、\(a^2+b^2=(3a’)^2+(3b’)^2=9′(a’^2+b’^2)\)となる。

これが\(3c^2\)と等しいため、\(9′ (a’^2+b’^2 )=3c^2\)から\(3(a’^2+b’^2 )=c^2\)を得る。

つまり\(c^2\)は3で割って0余る数であるが、これも(1)よりcが3の倍数であることを示している。

したがってこの場合、\(a,b,c\)いずれも3で割り切れる必要があるとわかった。

 

ここまでであればおそらく問題集でも見たことのあるイージークエスチョンでしょう。

ここからが本番です。

 

 

 

2. 無限降下法 ~1より小さな自然数は存在しえない~


 

では、(3)を解いてみることにします。(2)までを解けていれば、 はいずれも3の倍数であることが分かっています。まずはこれを代入するところから始めてみましょう。

 

[解答の途中]

かくのごとき条件を満たす自然数\(a,b,c\)が存在すると仮定する。

先の(2)の結果から、ある自然数\(a’,b’,c’\)が存在して\(a=3a’,b=3b’,c=3c’\)と書けるので、これを\(a^2+b^2=3c^2\)に代入して計算すると、

\((3a’)^2+(3b’)^2=3(3c’)^2\)

\(9a’^2+9b’^2=27c’^2\)

\(a’^2+b’^2=3c’^2…①\)

という式を得る。

 

この新しく出てきた①という式に注目してみましょう。この式は、もともとの式で であった部分を、そのまま に置き換えた形になっています。要するに全く同じ式が出てきたわけです。

では、今度は新しく出てきた に対して同じ操作を繰り返してみるとどうなるでしょうか? これは以下の通り、先ほどと全く同じ展開が発生します。

 

 先の(2)の結果から、ある自然数\(a”,b”,c”\)が存在して\(a’=3a”,b’=3b”,c’=3c”\)と書けるので、これを\(a’^2+b’^2=3c’^2\)に代入して計算すると、

\((3a”)^2+(3b”)^2=3(3c”)^2\)

\(9a”^2+9b”^2=27c”^2\)

\(a”^2+b”^2=3c”^2…①\)

という式を得る。

 

これを見ると、どうやら同じ操作がいくらでも繰り返せそうですね。まるで最初の式の中に、マトリョーシカのごとくミニチュアになった同じ式が入っているような感じです。

さて、ここで「なんか妙だな?」と思った方は鋭いです。今の議論の中には、実は重大な落とし穴があるのです。

\(a’\)とはなんだったでしょうか?\(a=3a’\)を満たすような自然数でした。この時、\(a\)と\(a’\)では明らかに\(a’\)の方が小さいのが分かるでしょうか。3倍する前の数の方が、3倍した後の数よりは小さいはずですよね。

同じように、\(a”\)というのは\(a’=3a”\)を満たす自然数ですから、\(a”\)の方が\(a’\)よりも明らかに小さいはずです。つまり、\(a>a’>a”\)というわけです。

もし、これがいくらでも繰り返せるとすると、\(a>a’>a”>a”’>a””>a””’>⋯\)という風に「いくらでも小さな自然数」が取れることになってしまいます。

ですが、これは奇妙です。なぜならば、自然数はどんなに小さくても必ず「1」より小さくなることはありえないからです。ですから、「いくらも小さな自然数が取れる」というような状況が発生するのであれば、それは矛盾しているのだと言えます。

正しい流れで議論を行ったのに矛盾が発生するということは、最初の仮定「かくのごとき条件を満たす自然数\(a,b,c\)が存在する」というのが間違っていたということになります。したがって、問題文の条件を満たす自然数\(a,b,c\)は存在しないということが分かります。

 

[解答の続き]

ここで\(a’,b’,c’\)は\(a,b,c\)よりそれぞれ真に小さい自然数である。また、①式に対して同様の操作を行うと、\(a’,b’,c’\)よりそれぞれ真に小さい自然数を得る。新たに得た自然数も①式と同様の形をしているはずであるから、同様の操作を繰り返すことができる。

これにより、いくらでも小さな自然数を得ることができるが、自然数は1より小さくならないので矛盾する。

以上より、最初の仮定が間違っており、問題文の条件を満たす自然数\(a,b,c\)は存在しない。

 

あるいは以下のような書き方を取ることもできます。

 

[別解答]

問題文の条件を満たす自然数\(a,b,c\)が存在すると仮定する。

そのような自然数の組\((a,b,c)\)のうち、第一要素\(a\)が最小となるものを1つ選んで\((A,B,C)\)とする。先の(2)の結果から、ある自然数\(a’,b’,c’\)が存在して\(A=3a’,B=3b’,C=3c’\)と書けるので、これを\(a^2+b^2=3c^2\)に代入して計算すると、

\((3a’)^2+(3b’)^2=3(3c’)^2\)

\(9a’^2+9b’^2=27c’^2\)

\(a’^2+b’^2=3c’^2…①\)

という式を得る。

ところで、明らかに\(A=3a’>a’\)であり、①式から自然数の組\((a’,b’,c’)\)は問題文の条件を満たすことが分かる。しかし、これは\((A,B,C)\)が条件を満たす組のうち第一要素が最小となるようにとってきたことに矛盾する。

以上より、最初の仮定が間違っており、問題文の条件を満たす自然数\(a,b,c\)は存在しない。

 

これは「条件を満たす自然数のうち、特定の要素が最小になる組を取ってきたのにもかかわらず、それよりも小さい自然数がその要素となる組が作れるから矛盾している」という論法になります。一見すれば「いや、より特定の要素が小さい組が見つかったら何が困るの?」と思うかもしれませんが、「より特定の要素が小さい組が見つかったということは、新しく見つかったその組に同じことをしたらさらに特定の要素が小さい組が得られて、それにも同じ操作をしたらさらに特定の要素が小さい組が得られる……と、特定の要素をいくらでも小さい自然数にできちゃうことになるよね」と、さっきと同様の展開になります。

無限降下法というのはこのように、「正しくない命題を仮定して特定の手順を繰り返すといくらでも小さい自然数が得られることになるが、これは矛盾を生むよね」という証明方法なのです。

 

 

 

3.おわりに


 

無限降下法、いかがだったでしょうか?

有名なところではフェルマーの最終定理の\(n=4\)の場合の証明にこれが使われています。一般の場合の証明は何も理解できないところですが、特定の場合に限れば高校数学でも十分に理解が効く内容となっており、かなり面白いです。

皆さんもこの夏は無限降下法で無限に小さな自然数を作ってみては……じゃなくて、矛盾を生み出してみてはいかがでしょうか。

それでは今回の記事はここまで。来月もぜひよろしくお願いいたします。

 

 

 

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【記事監修者】塾長 柳生 好春


1951年5月16日生まれ。石川県羽咋郡旧志雄町(現宝達志水町)出身。中央大学法学部法律学科卒業。 1986年、地元石川県で進学塾「東大セミナー」を設立。以来、38年間学習塾の運営に携わる。現在金沢市、野々市市、白山市に「東大セミナー」「東進衛星予備校」「進研ゼミ個別指導教室」を展開。 学習塾の運営を通じて自ら課題を発見し、自ら学ぶ「自修自得」の精神を持つ人材育成を行い、社会に貢献することを理念とする。

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