皆さんこんにちは。東大セミナーの北川です。
今回は「2012年旭川医科大学で出題された整数問題とその背景」についてお話します。
目次
突然ですが、皆さんは現役生の頃にどんな数学の問題集を使っていましたか? その筋では色々有名な参考書というのは多数ありますが、チャート式シリーズのお世話になった方も多いのではないでしょうか。
さて、今回ご紹介する問題は、そんなチャート式シリーズの中でも「黒チャート」から見つけてきた問題になります。「えっ、チャート式に黒い表紙のものなんてあったっけ?」と思われる方もいらっしゃることでしょう。
一般によく使われるチャート式と名がついた問題集は、簡単な順に表紙の色が白、黄、青、赤となっています。ただ、その他にも共通テスト対策に特化した緑チャートや、頻出問題のみに特化した紫チャートなども存在しており、今回の黒チャートは「医学部向け」に特化した問題集になっています[1]。
そういうわけで、この黒チャートには全国の有名医学部の入試問題がこれでもかと並んでいるわけなのです。そして、私が久しぶりに最初の数ページをめくってみると、一つの問題に釘付けになりました。何の因果か、ついこの間まで趣味として調べていた”とある定理”と深い関係がある問題を見つけてしまったのです。
数学的にも非常に良い問題ですから、これも何かの縁と思って記事に取り上げた次第です。次項からは問題の主張、解き方、そしてこの問題の背景となっている「フェルマーの二平方和定理」について詳しく見ていくことにしましょう。
[1] これとは別に黒い表紙のチャート式には「数学難問集100」というのもあります。内容としては誰向けに調整したのかよく分からない、というのが率直な感想ですが……。
前置きが長くなりましたが、今回の問題はこちらです。
正の奇数\(p\)に対して、3つの自然数の組 \( (x,y,z)\)で、 \(x^2+4yz=p\)を満たすもの全体の集合を \(S\)とおく。すなわち、
\(S=\{(x,y,z)|x,y,z\)は自然数、\(x^2+4yz=p\}\)
次の問いに答えよ。
問1 \(S\)が空集合でないための必要十分条件は、\(p=4k+1\) ( \(k\)は自然数)と書けることであることを示せ。
問2 \(S\)の要素の個数が奇数ならば\(S\)の要素\((x,y,z)\)で\(y=z\)となるものが存在することを示せ。
さて、この問題の意味するところから解説していきましょう。
この問題の最初には、このようなことが書かれています。
正の奇数\(p\)に対して、3つの自然数の組 \( (x,y,z)\)で、 \(x^2+4yz=p\)を満たすもの全体の集合を \(S\)とおく。すなわち、
\(S=\{(x,y,z)|x,y,z\)は自然数、\(x^2+4yz=p\}\)
これを少し平易な言葉で言うと、「ある奇数\(p\)を、3つの自然数[2]\( x,y,z\)を使って、\(x^2+4yz=p\)と表す方法」について考える、ということになります。具体例で見てみましょう。例えば、\( 5\)は奇数ですから、仮に\(p=5\)として考えてみることにします。
\(x^2+4yz=5\)を満たすような自然数\( x,y,z\)の組み合わせ、何かあるでしょうか?
少し考えてみると、\( x=1,y=1,z=1\)という組み合わせが挙げられます。そして、更に考えてみると、\(p=5\)のときはこれ以外に組み合わせはないことも分かります。
他にも適当な奇数で考えてみましょう。例えば\(p=9\)としたときはどうでしょうか?
このとき、\(x^2+4yz=9\)を満たす組み合わせは\(x=1,y=2,z=1\)と\(x=1,y=1,z=2\)の2つが考えられます。
一方で、例えば\(p=7\)のとき、\(x^2+4yz=7\)を満たすような\(x,y,z\)の組がないことは、注意深く確認することで分かります。
どうやら、\(p\)の値によって「条件を満たすような\(x,y,z\)の組み合わせが存在するかどうか」に違いが出てくるようです。そしてこれが、問1において着目している点です。
問1の主張を再度確認してみましょう。
問1 \(S\)が空集合でないための必要十分条件は、\(p=4k+1\) ( \(k\)は自然数)と書けることであることを示せ。
要するにここで証明するよう言われているのは、以下の2つの事実です[3]。
・ \(p\)が4で割って1余る奇数ならば、条件を満たす\(x,y,z\)の組み合わせが必ず存在する。
・\(p\)が4で割って3余る奇数ならば、条件を満たす\(x,y,z\)の組み合わせは必ず存在しない[4]。
これは確かに、先ほど検証した内容とぴったり合致しますね! 正しそうですが、証明するまでは正しいと言い切ることはできません。
ではどのように証明していくのか。証明したいこと2つのうち、上の方にまずは絞って考えてみることにしましょう。4で割って1余る奇数を検討していくと、
・\(p=5\)の時は\(x=1,y=1,z=1\)が条件を満たす。
・\(p=9\)の時は\(x=1,y=1,z=2\)が条件を満たす。
・\(p=13\)の時は\(x=1,y=1,z=3\)が条件を満たす。
・\(p=17\)の時は\(x=1,y=1,z=4\)が条件を満たす。
……
ということに気が付きます(他に満たすペアがあるかもしれませんが、ひとまず特徴のあるものだけを挙げました)。皆さんも実際にこれらの組み合わせが条件を満たすことを、確認してみてほしいです。あからさまに\(z\)だけが増えているのがお判りいただけると思います。
つまり、\(p\)が4で割って1余る奇数の場合は\(x\)と\(y\)は1で、\(z\)がうまい自然数の値をとれば主張を証明できそうですね。こっちはこれであらかた解決です。
では、先ほどの証明したいこと2つのうち、下の方はどうでしょうか?
ここは「背理法」で証明してみたいと思います。
\(x^2+4yz=p\)について、もしが4で割って3余る奇数なのだと仮定してみましょう。すると、イコールで結ばれている\(x^2+4yz\)もまた、4で割って3余っていないとおかしなことになります。
さらにここで\(4yz\)は「4に自然数をかけたもの」なので、4で割り切れるはずです。だから、\(x^2\)が4で割って3余る数でないと、つじつまが合わなくなってしまいます。
よって、ここでの焦点は「 \(x^2\)が4で割って3余ることはあるのか? ないのか?」ということになります。結論を言ってしまえば[5]、偶数の2乗を4で割れば余りは出ず、奇数の2乗を4で割れば必ず1しか余りませんから、どうやっても「 \(x^2\)が4で割って3余ることはない」と言えます。つまり、
・仮定から、\(x^2\)は4で割って3余る数である。
・別の考察から、\(x^2\)は4で割って3余る数でない。
という真っ向から対立する主張が並び立つ状況になります。いわゆる「矛盾」ですね。
途中の推論に問題がないにもかかわらず矛盾が起きたのは、最初に仮定した「\(p\)は4で割って3余る奇数である」というところが間違いだったからで、したがってここから「\(p\)は4で割って3余る奇数ではない」と結論付けて良いことになります。
このように証明したい命題の否定を仮定し、矛盾を導くことで証明を行うという手順を背理法と呼びます。よく使うので覚えておきたいところですね。
以上を踏まえて解答を記述すると、以下のようになります。
問1
\(k\)は自然数であるとする。「\( p=4k+1\) ( \(k\)は自然数)⇒\(S\)が空集合ではない」かつ「\(S\)が空集合ではない⇒\(p=4k+1\)」を示せばよい。
●「\( p=4k+1\) ⇒\(S\)が空集合ではない」の証明
組\((x,y,z)=(1,1,k)\)は、\(x^2+4yz=4k+1=p\)を満たすことが容易に確認できるため、この時\(S∈(1,1,k)\)となって\(S\)は空ではない。
●「\(S\)が空集合ではない⇒\( p=4k+1\) 」の証明
対偶を取り、「\(p≠4k+1\) ( \(k\)は自然数)⇒\(S\)が空集合である」を示す。\( p\) は奇数であるから、これは「 \( p=4k-1\)⇒\(S\)が空集合である」と同値。
\( p=4k-1\)のとき、\(S\)がある自然数の組\((x’,y’,z’)\)を要素に持つとする。このとき、\((x’)^2+4y’ z’=p\)が成り立ち、よって、\((x’)^2+4y’ z’≡3(mod4)\)であるから、\((x’)^2≡3(mod4)\) である。…①
ところで、\(0^2≡0(mod4)\) 、\(1^2≡1(mod4)\) 、\(2^2≡0(mod4)\) 、\(3^2≡1(mod4)\) であるから、\(0≦r≦3\) なる自然数\(r\)と、任意の自然数\(l\)に対して、\((4l+r)^2≡r^2≢3(mod4)\)であることが分かる。これはいかなる自然数の平方も4で割った余りが3にならないことを指すから、①に矛盾する。
したがって背理法により、この時は\(S\)は空であることが示される。□
[2] この記事中では「正の整数」を「自然数」と呼称します(つまり、自然数に0は含めない立場をとります)。
[3] 4で割り切れる数や4で割って2余る数は必ず偶数なので、以下のような類別が成立しています。
[4] 正確に言えば、これの対偶が証明したい内容です。
[5] どうしてこうなるのかを考えるとそれだけでかなりの紙幅を食ってしまうので、後述する解答例にて述べるにとどめます。
ここからは問2を考えていきましょう。
という問いですが、これは以下の通り言い換えることができます。
例えば\(p=13\)の時、条件を満たすような\(x,y,z\)の組は以下の3組です。
・\(x=1,y=1,z=3\)
・\(x=1,y=3,z=1\)
・\(x=3,y=1,z=1\)
これらの中で、一番下の組は\(y=z\)を満たす組み合わせになっていますね。他にも、ペアが奇数個になるときは、必ず\(y=z\)なる組み合わせがある、というのが問2の主張です。
実際にいくつかの\( p\)で試してみてください。得られる組み合わせが奇数個のときは、恐らく\( y\)と\( z\)が等しい組が1つ以上は見つかるはずです。
さて、この問題を解くうえで必要な気づきは「対称性」です。
もう一度\(p=13\)のときの例を見てみましょう。上の組と、真ん中の組は、お互いに\( y\)と\( z\)の値を入れ替えたものであることにお気づきでしょうか?
よくよく考えてみれば、\( x^2+4yz=p\) という式は、\( y\)と\( z\)の位置を入れ替えてもその意味を変えないはずです(掛け算はどこから計算しても問題ないため)。要するに、ある\(x,y,z\)の組み合わせで\(x^2+4yz=p\)となるのなら、その組の\(y\)と\(z\)を入れ替えた組もまた\(x^2+4yz=p\)を満たすのです。
そしてもう一つ大事なこととして、\(y\)と\(z\)を入れ替えることによって「自分と違う組」になる組と、「自分と同じ組」になる組の2種類が存在する、という事実があります。
みたび、\(p=13\)のときの例を持ち出して考えると、上の組と真ん中の組は、\(y\)と\(z\)の値を入れ替えることで「自分と違う組」になっています。一方で、下の組は\(y\)と\(z\)の値を入れ替えても、依然「自分と同じ組」になっています。
もっと言えば、\(y\)が\(z\)より大きいか、小さいときは、\(y\)と\(z\)の入れ替えで自分と違う組になりますが、\(y\)と\(z\)が等しいときは、\(y\)と\(z\)を入れ替えても自分と同じ組にしかならないのです。
ところで今、「\(y\)が\(z\)より大きいか、小さいときは、\(y\)と\(z\)の入れ替えで自分と違う組になります」と私は言いました。では「\(y\)が\(z\)より大きい組」と「\(y\)が\(z\)より小さい組」は、どちらが多いでしょうか?
これは、例えば1つ「\(y\)が\(z\)より大きい組」を持ってきて、そ\(y\)と\(z\)の値を入れ替えることを考えてみると分かりやすいです。すると、先ほど確認した通り、この入れ替えた後の組もまた条件を満たします。さらに、これは「\(y\)が\(z\)より小さい組」になっているはずです。大きい成分と小さい成分の位置をちょうど真逆にしたのですから、大小関係も逆転している、というわけですね。
これは主体を「\(y\)が\(z\)より小さい組」にしてみても同じことです。まとめると、「\(y\)が\(z\)より大きい組」1つから「\(y\)が\(z\)より小さい組」1つを作り出すことができ、かつその逆もできるということです。これは直感的には「\(y\)が\(z\)より大きい組」と「\(y\)が\(z\)より小さい組」は同じ数だけある、という結論を導きそうです。
今回は先の「背理法」と「鳩ノ巣原理」[6]によって記述してみました。
問2
\(S\)の要素のうち、 \(y<z\)なる要素のみからなる集合を 、 \(S_1\)、\(z<y\)なる要素のみからなる集合を \(S_2\)、\(y=z\)なる要素のみからなる集合を とする。
まずは以下の補題を示す。
(★) \(S_1\)と\(S_2\)の要素の個数は等しい。
【(★)の証明】
●\(S_1\)、\(S_2\)のいずれも空でないとき
\(S_1\)と\(S_2\)の要素の個数が異なると仮定する。
するとどちらかの集合の要素の個数が多いことになる。仮に\(S_1\)の要素の方が多いと仮定する。このとき、各\(S_1\)の任意の要素\(s\)について、その\(y\)成分と\(z\)成分の値を入れ替えたもの\(s’\)は\(S\)に属し、特に\(s’\)は\(S_2\)に属する(これは \(S\)、\(S_1\) 、\(S_2\) の定義から直ちに従う)。
すると鳩ノ巣原理によって、以下の事実が従う。
・ある\((x_3,y_3,z_3 )∈S_2\)が存在して、異なる\((x_1,y_1,z_1 ),(x_2,y_2,z_2 )∈S_1\)に対して、\((x_1,z_1,y_1 )=(x_3,y_3,z_3 )\)かつ\((x_2,z_2,y_2 )=(x_3,y_3,z_3 )\)が成立する。
しかし、これは各成分の比較により\((x_1,y_1,z_1 )=(x_2,y_2,z_2 )\)を導くため矛盾する。
同様のことが\(S_2\)の要素の方が多いと仮定しても起こる。よってこのとき、\(S_1\)と\(S_2\)の要素の個数は等しい。
●\(S_1\)、\(S_2\) のいずれかが空であるとき
\(S_1\)を空であるとして、\(S_2\) が空でないとすると、(先の議論と同様)ある\(S_2\) の要素が存在し、その\(y\)成分と\(z\)成分を入れ替えた要素は\(S_1\)に属するはずなので、これは矛盾。これは\(S_2\) が空であるとき、\(S_1\)が空でないとしても同様の結果が得られる。
よって、\(S_1\)が空であることと、 \(S_2\)が空であることは同値であるから、このときも\(S_1\) と\(S_2\) の要素の個数は等しい。
さて、 \( S=S_1∪S_2∪S_3\) であり、各\(S_1,S_2,S_3\) はどの2つをとっても共通の要素を持ちえないため、\(S\) の要素の個数は それぞれの要素の個数の合計であることが言える。特に、\(S\) の要素の個数は\(S_1∪S_2\) と\(S_3\) の要素数の合計であると言える(①)。
(★)より、\(S_1,S_2\) は要素数が等しいため、\(S_1∪S_2\) の要素数は\(S_1\) の要素数の2倍、要するに偶数であることが分かる。今、\(S\) の要素数は奇数個であるという前提があるため、\(S_3\)が空であるとすると①よりこの前提に直ちに矛盾する。
したがって\(S_3\)は空ではなく、特に、\(S\)は\(y=z\)なる要素を持つとしてよい。□
難易度としては問1が標準レベル、問2がやや難レベルと言ったところでしょうか。
問題そのものの説明としては以上になります。
[6] 「鳩が何羽かいて、巣箱が何個かある。このとき、巣箱の個数が鳩の羽数より少ないとすると、ある箱の中には鳩が2羽以上入っている」ということを言った原理です。
さて、上記の問題を見て「これは何?」と思った方もいると思います。
特に、唐突に登場した\(S\)という集合。この集合が空でないための必要十分条件。そして\(y=z\)なる要素を持つ十分条件……。何というか、「問題のための問題」な感じがして、これがどんな数学的事実に繋がっているのかはピンとこないような気もします[7]。
ですが、実はこの問題に限って言うと、ある定理の証明の一部分として知られています。それが以下の定理です。
[フェルマーの二平方和定理]
奇数の素数\(p\)について、\(q=n^2+m^2\)となるような正の整数\(n,m\)が存在するのであれば、\(q\)は4で割って1余る素数である。また、\(q\)が4で割って1余る素数であるならば、 \(q=n^2+m^2\)となるような正の整数\(n,m\)が必ず存在する
最後に今回の問題がこの定理とどんな関係を持つかについてお話いたします。
今回の問題について分かったことを整理しましょう。
事実1: \(p\)が4で割って1余る奇数であるならば、ある自然数\(x,y,z\)が存在して\(p=x^2+4yz\)と表すことができる。
事実2: \(p\)が奇数で、ある自然数\(x,y,z\)が存在して\(p=x^2+4yz\)と表すことができるなら、\(p\)は4で割って1余る奇数である。
事実3:奇数\(p\)について、 \(p=x^2+4yz\)を満たすような自然数の組\((x,y,z)\)が奇数組存在しているのならば、その中に、\(y=z\)となるような組が1つは存在する。
ここで、事実3が主張していることをもう少し詳しく考えてみましょう。
「\(y=z\)となるような組が1つは存在する」というのは、「奇数\(p\)は、ある自然数\(x,y\)が存在して、\(p=x^2+4y^2\)と表すことができる」ということに他なりません。つまり、「奇数\(p\)は\(p=x^2+(2y)^2\)と表すことができる」と言え、これはよく見れば、「 \(p\)はある自然数の二乗と、別のある自然数の二乗の足し算で表せる」と主張していることになります。
これをもう少し簡潔に書いてみましょう。
事実3’: 奇数\(p\)について、\(p=x^2+4yz\)を満たすような自然数の組\((x,y,z)\)が奇数組存在しているのならば、\(p\)は2つの自然数の二乗の足し算で表せる。
更に、事実1と2から、そもそも事実3の前提条件を満たすような奇数 は4で割って1余る奇数に限られます。つまり、事実3’は、更にこのように書けます。
事実3’’: 4で割って1余る奇数\(p\)について、\(p=x^2+4yz\)を満たすような自然数の組\((x,y,z)\)が奇数組存在しているのならば、\(p\)は2つの自然数の二乗の足し算で表せる。
この主張、フェルマーの二平方和定理の後半部分とよく似ている気がしませんか?
[(再掲)フェルマーの二平方和定理の主張・後半]
\(q\)が4で割って1余る素数であるならば、\(q=n^2+m^2\)となるような正の整数\(n,m\)が必ず存在する。
事実3’’と定理の主張後半で異なっている部分を考えてみましょう。事実3は主張の成立に、「条件を満たす組が奇数個存在している」ことを要求しています。一方で定理の主張後半は「表す数が素数であること」を要求しています。微妙に食い違っていますが、実は以下の事実が成り立つことが知られています。
[2つの主張のブリッジ]
\(q\)が4で割って1余る素数であるならば、 \(q=x^2+4yz\)を満たすような自然数の組\((x,y,z)\)は必ず奇数組存在している。
これはつまり、\(q\)が4で割って1余る「素数」であれば、自動的に事実3’’の前提条件を満たしていることを指します。つまり、この「ブリッジ=橋」となる主張を認めるのであれば、先ほどの問2で証明した事実を使って、フェルマーの二平方和定理の後半部分は証明できてしまいます。
また、フェルマーの二平方和定理の前半部分は事実2によって証明することができます。
~概略~
\(q\)は奇数の素数ですから、4で割った余りは1か3のどちらかになります。
\(q\)を4で割った余りが3のとき、仮に何か\(q=n^2+m^2\)となるような正の整数\(n,m\)が存在したと仮定しましょう。この時、\(q\)は奇数ですから、\(n^2+m^2\)も奇数になります。すると、\(n^2\)と\(m^2\)のうち、どちらかは奇数でどちらかは偶数でないとつじつまが合いません。
では、\(n^2\)の方を偶数だとしましょう(\(m^2\) の方を偶数としても一般性は失いません)。この時、\(n^2\)が偶数なら、\(n\)もまた偶数になりますから、ある自然数\(n’\)が存在して\(n=2n’\)と表せることになります。
これを\(q=n^2+m^2\)に代入して整理すると、\(q=m^2+4(n’)^2\)となります。よって、\((x,y,z)=(m,n’,n’)\)という自然数の組は\(q=x^2+4yz\)を満たします。しかし、\(q\)が4で割った余りが3のときは、事実2によりそのような自然数の組は存在しないことが保証されていますから、これは矛盾です。
さて、ここまで長かったですが、要するにあとは「2つの主張のブリッジ」としたあの部分さえ証明できればフェルマーの二平方和定理は証明完了です。
そして、この部分の証明こそがいわば証明の核、心臓に当たる部分です。本当はここまで解説したいのですが……流石に記事が長くなりすぎてしまうのでここまでにしましょう。
気になる方は「ザギエの一文証明[8]」で是非調べてみてください。インターネット上には様々な解説があります。この証明自体もそんなに大変ではないので、是非理解して個の面白さを味わっていただきたいです!
それでは今月はここまで。お付き合いいただきありがとうございました。
また来月の記事でお会いいたしましょう。
[7] 別に「問題のための問題」が悪いわけではないのですが。ただ、背景の深掘りができるのにしないというのは勿体ないのではないか、というくらいの気持ちです。
[8] 今回紹介した証明を考えたのが、ドン・ザギエという数学者です。そして、なんとこの証明はたったの一文で完結することが知られています(ただし難しい)。この一文を果てしなく解説するのが今回の記事の最終節、とも言えますね。
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