皆さんこんにちは。東進衛星予備校 金沢南校の北川と申します。
先月予告した読書感想文の調査が全く進んでいないため、今月は別の話題で記事を作成しております。
今月はゲーム『ポケットモンスター スカーレット(バイオレット)』(以下ポケモンSV)のとある遊び方に関するお話を通して、高校で習う確率のコツについてお伝えしていきたいと思います(ポケモンをあまり知らない人でも分かるようなライトな話にします)。
最後には数学的に興味深い「誕生日のパラドックス」についても触れられればと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
目次
この記事を読んでいらっしゃる方の中には、ポケモンシリーズについて詳しくない方も多いと思います。今回する話を理解するには、2つほど分かっておいてほしい前提がありますので、少々お付き合いいただければと思います[1]。
・ポケモンシリーズには「色違い」という、希少度が高いポケモンが存在する。
ポケモンシリーズは、対戦の要素やRPGの要素がクローズアップされることも多いですが、1000種類以上いる「ポケモンの収集」に主眼を置く人も存在しています。
同じ種類であっても、ポケモン1匹1匹には個性が存在していて面白いのですが、その個性の中でもひときわ目立つのが「色違い」という存在です。簡単に言うと、ごく低確率で出現する、通常とは体色の違うポケモンのことです。
(権利の都合上画像は貼れないためご自身で調べて頂きたいのですが)、例えば分かりやすいところだと「ニャビー」という猫をモチーフにしたポケモンは、体色の黒い部分がすべて白色になり、赤と白のコントラストが素敵な色合いになります。
見た目の派手さ、希少さから、収集目的でポケモンシリーズを遊ぶ人にとって、色違いというのは非常に魅力的な要素なのです。
・ポケモンシリーズには「卵の孵化」という要素があり、これで「色違い」を入手できることがある
同じ種類のポケモン同士を連れてゲームを進めると、時々「ポケモンの卵」を入手することができます。このポケモンの卵は、一定歩数を連れ歩くことで孵化し、新たなポケモンが生まれます。
この時生まれるポケモンも、色違いである可能性があります。なので、ゲームクリア後のやり込みとして、ひたすらポケモンの卵を入手し続け、そして卵を孵し続けることで、色違いの入手を狙う人々もたくさんいるわけです。
まとめると、「ポケモンには卵を孵化させ続け、低確率で出現する色違いを狙う」という遊び方があるのです。
さて、この卵孵化で色違いを得られる確率がどのくらいかというと、最大までこの確率を高める努力をしたうえで、大体\(\frac{1}{512}\)程度になります[2]。
つまり、超大量に卵を孵化させれば、512匹に1匹程度の頻度で色違いが出現するというわけです。ちなみに、1時間に孵せる卵は(卵を入手する時間も含めて)大体60個前後[3]ですので、およそ8時間半あれば512匹分の卵を孵せます。
8時間半あったら、京極夏彦先生の『魍魎の匣』[4]をゆっくり読んでもおつりが返ってきそうです。或いは、5コマ1単位である東進の講習講座を受けきってもちょっと残る[5]ぐらいの長さです。……そんな長大な時間をかけて512匹の卵を産むことの価値と意義を論ずることは、今回の主目的ではありませんので割愛します。
今回考えたい問題。それは「長大な時間をかけて512匹の卵を孵し終わった時点で、色違いが1匹でも得られる確率はどれくらいか?」というものです。
え?\( \frac{1}{512}\)の確率で色違いが得られるのだから、512回繰り返せば色違いが1匹手に入るのでは? と思ったあなた。それは違います。
例えば、\(\frac{1}{2}\)の確率で表が出るコインを2回投げても、必ず表が1回出るわけではありませんよね。裏2回のこともあれば、表2回のことだってあるはずです。それと同じように、「512回孵化を繰り返して色違いが1匹でも得られる確率」は、実は別に計算しないと出せないのです。
次項では、この確率を計算し、ついでに色違いにまつわる色々な確率を計算していきたいと思います。
[1] 知っている人にとっては何を今更ということだと思いますから、読み飛ばして頂いても構いません。ザックリ言えば、環境が整った状態での孵化厳選をするという話です。
[2] ひかるおまもり、国際孵化込みの確率。また、厳密には誤差を含むが、無視できる程度の小さな誤差であるためここでは考慮しない。
参考:ポケモンwiki(https://wiki.xn--rckteqa2e.com/wiki/%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E5%AD%B5%E5%8C%96)
[3] たまごパワーLv.2を継続してつけ続けることを前提とした場合。
[4] 文庫で本編が1000ページほどあるミステリ小説。初めて見た時「文庫本でこんなサイズ出していいんだ!」と衝撃を受けました。
[5] 1コマを1時間30分として換算。
では、「\(\frac{1}{512}\)の確率で色違いが手に入る卵孵化を512回繰り返して、1匹でも色違いが出る確率」を求めていきましょう。
といっても、「1匹でも色違いが出る確率」を直接求めるのは大変です。なぜなら、「1匹でも色違いが出る」というのは、「1匹だけ色違いが出る確率」とは違うからです。
つまり、「1匹でも色違いが出る」というのは、「1匹色違いが出る」と、「2匹色違いが出る」と、「3匹色違いが出る」と、……「512匹色違いが出る」をすべて合わせた事象なわけです。512個の事象が起こる確率をすべて足すのは面倒! やってられない!
ということで、もっと良い方法を考えましょう。
「1匹でも色違いが出る」というのを「1匹も色違いが出ないことはない」と捉えるのはどうでしょう? 言葉遊びに見えるかもしれませんが、こう捉えることでグッと計算が簡単になります。
具体的に考えてみましょう。
512個の卵が孵った時、その中にいる色違いの数は0匹から512匹のどれかになっているはずです。つまり、「孵った卵の中にいる色違いの数が0匹から512匹のどれかになる確率」は1になります。
この1から、「色違いの数が0匹である確率」を差し引けば、「1匹でも色違いが出る確率」を求めることができます。
では、色違いの数が0匹になる確率はどれくらいでしょうか?
卵孵化1回あたり、色違いでないポケモンが生まれる確率は\(\frac{511}{512}\)になります(全体の確率1から、色違いが生まれる確率\(\frac{1}{512}\)を引いた値です)。
つまり、\(\frac{511}{512}\)の確率で起こることが512回連続で起こると、色違いは0匹になるわけです。この確率は\((\frac{511}{512})^{512}=0.367519…\)と計算でき、パーセント表記であれば36.75%程度になることが分かります(ここから、1匹でも色違いが生まれる確率については、\(1-(\frac{511}{512})^{512}=1-0.367519…=0.632480…\)と計算でき、パーセント表記だと63.25%程度だと分かります)。
ザックリ言うと、「8時間半かけて卵を512個割ったとして、その中に色違いが1匹もいない確率が36.75%ある」ということです。この確率が高いか低いかは、このままでは個人の感性によるところでしょう[6]が、「へー、8時間半が無駄になる確率が35%以上あるんだ。高いなあ」という人も多いのではないでしょうか。
僕も真面目にこれを考えていたら、ホゲータ[7]の色違いが出るまで孵化しようなんて思わなかったかもしれないなあ……。
ともあれ、このように計算が面倒な事象に対する確率は、「それが起こらない確率」を「全体」から引き算することによって求めると、簡単に求まることがあります。
このような「ある事象が起きないという事象」を、「余事象」と呼びます。高校数学においては非常に良く使う考え方で、こんな風に日常生活(?)にも生きてくる面白いヤツなんです。
[6] このデータをもとに統計的な手法を使って検定などを行うこともできるでしょうが、この記事では深入りしないことにします。
[7] ポケモンSVで登場した「ほのおワニポケモン」。詳細は各自調べられたし。
他に余事象を応用した例として、「誕生日のパラドックス」というお話があります。
こんな内容です。
ある学校は、1クラス40人です。どの誕生日の生徒がいる確率も同様に確からしいとした時に、1クラスの中に誕生日が同じ2人(2人以上でもよい)がいる確率はどれくらい? ただし、うるう年は考慮しないものとする。
つまり、40人をランダムに集めた時、その中に誕生日が同じ人がいる確率はどれくらいかということです。直感的には、誕生日が被っている2人なんて珍しい気がしますし、そうそういなさそうなものですが……確率的にはどうでしょうか?
さっきの色違いの例とは違いますが、これも実は「余事象」を使うことによって簡単に解決することができます。自力で考えてみたい方はここでスクロールするのを一旦やめて考えてみてください。
ではここから答え合わせのパートです。
40人の中に誕生日が同じ2人(以上)がいることは、つまり「40人全員の誕生日がバラバラではない」ということを指します。つまり、全体の確率1から、40人全員の誕生日がバラバラである確率を引けばよいわけです。
適当な2人の誕生日が一致しない確率は、\(\frac{364}{365}\)です。これは1人目の誕生日以外から2人目の誕生日を選べばよい、と考えれば明らかです。
適当な3人の誕生日が一致しない確率は、\(\frac{364}{365}×\frac{363}{365}\)です。これも、1人目の誕生日以外から2人目の誕生日を選び、更に残った363個の日付から3人目の誕生日を選べばよい、と考えれば明らかでしょう。
よって、この考え方を繰り返せば、適当な40人の誕生日が一致しない確率は、\(\frac{364}{365}×\frac{363}{365}×…×\frac{327}{365}×\frac{326}{365}=\frac{(364×363×…×327×326)}{365^{40}} =0.108768\)
これを全体1から引いて、\(1-0.108768=0.891232\)
ということで、40人1クラスの中には、大体89%くらいの確率で誕生日が同じ人が存在しているのです。このお話が「パラドックス」と呼ばれる所以で、直感と大きく反する結果が得られるわけですね[8]。
[8] 直感的にもっと確率が低くなるような気がしてしまうのは、「自分と誕生日が同じ人」が全然いないということと混同しているからではないかという説があります。あくまでも「誰かと誰かの誕生日が同じ」という状態を考えていることに注意が必要です。
お疲れ様でした。
今回は「余事象」を使うことによって、一見複雑に見える確率を簡単に計算したり、一見直感に反するけれど正しいことを検証したりしました。
こうした確率の考えがベースにあると、「今自分がやろうとしていることって本当に実るのか?」という問いに、ある程度客観的な数値を持って答えることができます。
商店街のくじ引きから、色々なものを賭けた[9]挑戦まで、幅広く応用できる知識になっていますから、是非に修得していきましょう!
今月の記事はここまでです。最後までお付き合いいただきありがとうございました。
[9] この記事は違法賭博その他違法行為を推奨するものでは全くありません。
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