一押し入試問題! ~ザギエの一文証明~ 【後編】 - 石川県金沢市・野々市市・白山市の学習塾 - 東大セミナー
2023.12.31保護者通信

一押し入試問題! ~ザギエの一文証明~ 【後編】


皆さんこんにちは。東大セミナーの北川です。

今回は「ザギエの一文証明」についてお話します。

 


目次

1.前回までのあらすじ

2.開戦前夜:僕たちは何を証明したいのか

3.前半戦:ペアづくり

4.後半戦:余りがただ1つ出ることを示す


 

 

 

1.前回までのあらすじ


さて、先々月に私はこのような記事を執筆しました。

https://www.tohsemi.com/white-board/13159.html

旭川医科大学の問題をベースとして、フェルマーの二平方和定理の証明に軽く触れる記事になりました。今思えば入試問題の解説と完全に分ければ良かったのですが……気がはやってしまいました。

気を取り直して、今回はこのフェルマーの二平方和定理の証明[1]をより深掘りしてみることにします。以前の記事を一応前提としますが、まずはその内容について軽く振り返ってみましょう(また、先々月の記事に引き続き、この記事中でも自然数に0を含めない立場をとります。加えて、定理の条件を満たす自然数の組の集合が空でないこともいちいち断らずに使用します)。

 

 

[1] 記事タイトルの通り、今回はドン・ザギエによる(ヒース・ブラウンの証明を洗練した)一文証明を扱います。整数論的な方法を知りたい方は『図解する整数論』などを参照のこと。

 

 

 

2.開戦前夜:僕たちは何を証明したいのか


 

フェルマーの二平方和定理とは、以下のような定理でした(この記事では、素数を表す文字を\(p\)に統一します。前回の記事では\(p\)も\(q\)も濫用していましたが、この記事中では\(p\)は原則として素数、\(q\)は素数とは限らない整数を表しているものとしてください)。

 

[フェルマーの二平方和定理]奇数の素数pについて、\(p=n^2+m^2\)となるような正の整数\(n\),\(m\)が存在するのであれば、\(p\)は4で割って1余る素数である。また、\(p\)が4で割って1余る素数であるならば、\(p=n^2+m^2\)となるような正の整数\(n\),\(m\)が存在する。

 

このうち、前半部分に関しては前回の記事中で簡単な証明を与えています。

よって、大事になってくるのは後半の部分の証明です。

 

① [フェルマーの二平方和定理・後半部分]
\(p\)が4で割って1余る素数であるならば、\(p=n^2+m^2\)となるような正の整数\(n\),\(m\)が存在する。

 

これを証明するにあたり、分かっていることは以下の通りでした(前回の記事では「事実3’’」とした内容です。やや表記を改めていますが、意味としては変わりません)。

 

② [ここまでに分かっている事実]
\(q\)が4で割って1余る奇数であり、\(q=x^2+4yz\)を満たすような自然数の組(\(x\),\(y\),\(z\))が奇数組存在しているのならば、\(q=n^2+m^2\)となるような正の整数\(n\),\(m\)が存在する。

 

そして、この2つの主張を繋ぐ橋(ブリッジ)になっているのが、以下の主張です。

 

➂ [2つの主張のブリッジ]
\(p\)が4で割って1余る素数であるならば、\(p=x^2+4yz\)を満たすような自然数の組(\(x\),\(y\),\(z\))は奇数組存在している。

 

結論だけを言えば、この③が今回証明したい内容です

どうしてか、順を追って説明します。

まず、②は既に前回正しいと確認された事実です。そして、①が今回最終的に証明する定理です。つまり、②は既に正しいことで、①は正しいかどうかまだ(僕らは)知らないこと、ということです。ここを区別しておかないと、後から混乱してしまうので注意です。

今僕たちがやりたいことは②という「正しい事実」から、①が正しいということを証明することになります。ところが②と①の間には、ややギャップがあります。

②の主張を分解して記述してみましょう。

 

[②はこのようなことが必ず言えると主張する]
前提1:\(q\)が4で割って1余る奇数である。
前提2:\(q=x^2+4yz\)を満たすような自然数の組(\(x\),\(y\),\(z\))が奇数組存在している。
―(ならば)―
結論:\(q=n^2+m^2\)となるような正の整数\(n\),\(m\)が存在する。

 

前提1と2が同時に満たされているならば、結論が必ず得られる、という状況です。

一方で、①はこういう構造をしています。

 

[①はこのようなことを言いたい]
前提:\(p\)が4で割って1余る素数である。
―(ならば)―
結論:\(p=n^2+m^2\)となるような正の整数\(n\),\(m\)が存在する。

 

②とよく似ているけれど、前提の数が足りていませんね。この①で言いたいことを、②の形に近づけるにはどうしたらいいでしょうか?

ここでようやく、③が登場します。③はこのような内容です。

 

[主張③はこのようなことを言いたい]
前提:\(p\)が4で割って1余る素数である。
―(ならば)―
結論:\(p=x^2+4yz\)を満たすような自然数の組(\(x\),\(y\),\(z\))は奇数組存在している。

 

もし、この③が「正しい事実」であると証明出来れば、以下のようにして①が正しいことも証明できます。

 

[①を証明するならこんな感じ]
前提1:\(p\)が4で割って1余る素数である。
―(ならば)―
小結論:\(p=x^2+4yz\)を満たすような自然数の組(\(x\),\(y\),\(z\))は奇数組存在している。

前提1’: が4で割って1余る奇数である[2]

―(ならば)―
結論:\(p=n^2+m^2\)となるような正の整数\(n\),\(m\)が存在する。

 

赤字で書いた部分が③、青字で書いた部分が②の内容です。紫色の字で書いた小結論は、前半の結論であり、後半の前提の1つというわけです。

2つの事実が上手く組み合わさって、①の足りない穴を超えるための橋が架かったのが分かるでしょうか?

長くなりましたが、これが③が証明のキーポイントである理由です。

いよいよここから、この③の証明の中身に斬り込んでいきますよ!

 

 

[2] 4で割って1余る素数が奇数であることは殆ど明らかなので、証明無しで持ってきました。

 

 

 

3.前半戦:ペアづくり


さて、証明したい主張を再掲してみましょう。

 

[2つの主張のブリッジ]
\(p\)が4で割って1余る素数であるならば、\(p=x^2+4yz\)を満たすような自然数の組(\(x\),\(y\),\(z\))は奇数組存在している。

 

この事実を証明するための大道具を持ってきましょう。それは「ペアづくり」です。

どういうことか? ちょっとした具体例で見てみることにします。

例えば、ある袋の中に何個か積み木が入っているとしましょう。袋の中に積み木が偶数個入っているか、奇数個入っているか確かめなさいと言われたらどうしますか?

1個1個取り出して何個あるか数える、というのはどうでしょう? よさそうですが、入っている個数が増えるほど、数え間違えをしてしまう気がします。多少手間がかかってもいいから、間違えにくい方法を探したいです。

そこで、袋から2つずつ積み木を取り出していき、ペアにしておいていくというのはどうでしょうか? 2個ずつ取り出していき、もし最後に1個だけ残ったら、袋の中には元々奇数個あったと分かりますし、最後に何も残らなければ、偶数個だったと分かります。

これなら、途中で何個取り出したか忘れたとしても大丈夫ですよね!

 

これと同じことを、 \(p=x^2+4yz\)を満たすような自然数の組 に対して行うのです。要するに、条件を満たす自然数の組が、先ほどの例における積み木です。自然数の組を上手くペアにしていくと、1個だけ余るということを証明したいのです。

 

以降、「ペア」という言葉と「組」という言葉を使いながら説明を行います。ややこしいので改めてこの言葉の定義を確認しておくと、次の通りです。

・「組」と単にいう場合、「 \(p=x^2+4yz\)を満たすような自然数の組 」のことを指します。

・「ペア」と単にいう場合、上記の「組」を(相異なるとは限らない)2つ選んでまとめたもの[3]を指します。

ごちゃごちゃになりそうだったら一歩立ち止まって、これを思い出してください。

 

では、この「ペアづくり」を具体的に見ていきましょう。複雑な式なので、ここから先はニュアンスだけでも分かっていただければ幸いです。

ザギエが考えた[4]ペアづくりのルールは、以下のようなものでした。

 

 

①まずは、\(p=x^2+4yz\)を満たすような自然数の組(\(x\),\(y\),\(z\))を「以下の3つの条件のうち、どれに当てはまるか」で分ける。
・条件1:\(x\)が\(y-z\)よりも小さい(\(x<y-z\))。
・条件2:\(x\)は\(y-z\)よりも大きいが、\(2y\)よりは小さい(\(y-z<x<2y\))。
・条件3:\(x\)は\(2y\)より大きい(\(x>2y\))。

 

②そして、各条件に当てはまった組を、以下の\(p=x^2+4yz\)を満たすような自然数の組とペアにする。
・条件1に当てはまるものは、元の組(\(x\),\(y\),\(z\))に対して、(\(x+2z\),\(z\),\(y-x-z\))という組とペアにする。
・条件2に当てはまるものは、元の組(\(x\),\(y\),\(z\))に対して、(\(2y-x\),\(y\),\(x-y+z\))という組とペアにする。
・条件3に当てはまるものは、元の組(\(x\),\(y\),\(z\))に対して、(\(x-2y\),\(x-y+z\),\(y\))という組とペアにする。

 

 

なんだか複雑ですね~。前回と同じく、\(p=13\)の時で考えてみましょう。

\(p=13\)の時、条件を満たすような\(x\),\(y\),\(z\)の組は以下の3組です。

A)\(x=1\),\(y=1\),\(z=3\)

B)\(x=1\),\(y=3\),\(z=1\)

C)\(x=3\),\(y=1\),\(z=1\)

 

Bの組について考えてみましょう。この組は\(y-z=2\)よりも\(x=1\)が小さいので、条件1に該当します。そして、条件1に当てはまるものは「元の組(\(x\),\(y\),\(z\))に対して、(\(x+2z\),\(z\),\(y-x-z\))という組」に対応させるのでした。

 

実際に\(x=1\),\(y=1\),\(z=3\)を代入して計算すると……

(\(x+2z\),\(z\),\(y-x-z\))=(\(3\),\(1\),\(1\))

と分かりますから、このBの組はCの組と対応するわけです。

逆に、Cの組は条件3に該当しますが、同じように計算するとちゃんとBの組と対応します。

一方で、Aの組は条件2に該当しますが、これも実際に計算してみると、ペアになる組みはAの組自身になることが分かります。

よって、BとCが対応し、AはA自身と対応することが分かります。つまり、以下のような2つのペアを作ることができるわけです。

{(\(1\),\(3\),\(1\)),(\(3\),\(1\),\(1\))},{(\(1\),\(1\),\(3\)),(\(1\),\(1\),\(3\))}

自分自身と対応する組は、「ペアになる」と言ってしまうと何だか変な感じがします。ですがこの場合も、「自分自身とペアになっている」と見なすことにしましょう。

ともかく、\(p=13\)のときは「自分自身とペアになる」組が1つだけ存在していることが分かります。

さて、このことが一般に成立するとしたらどうでしょうか?

 

 

[予想]
ザギエのルールでペアづくりを行うと、pが4で割って1余る素数なら、ただ1つだけ自分自身とペアになる組ができる。

 

もし、これが正しいとするとどうなるか。
条件を満たす組たちでペアづくりを行っていくと、当たり前ですが幾つかのペアができていきます。ペアがいくつできようと、それが普通のペアであるなら(つまり、自分とは違う組とペアになっているなら)組の数の合計は偶数個になります。
そして、ただ1つだけ自分自身とペアになっている組が存在するわけですから、今ほどの偶数個の組の中に1つ加わり、全体としては奇数個の組が存在すると言えるわけです。

え? ややこしいって?
ともかく、この[予想]が正しければ、「条件を満たす組の個数は奇数個である」ということも正しくなるのです。これって、ちょうど僕たちが証明したかった内容そのものじゃないですか?
というわけで次節では、この[予想]を証明していきたいと思います。

 

【補足(読まなくても全体の理解に支障はありません)】

ここまで読んでみて、ツッコミたいことがある人もいることでしょう。

・そもそもこのペア分けは? どうしてこのルールで分けようと思ったの?

・というか、これってペア分けとして成立してるの? \(p=13\)の時はたまたま上手くいったけど、例えば別のpの時は「元の組(\(x\),\(y\),\(z\))に対して、(\(2y-x,y,x-y+z\))という組」が存在しないことだってありえるんじゃないの?

・或いは、さっきはBはCと、CはBと対応してたけど、必ずしもそうならないのでは? もっと自然数の組が多くなったときに、BはCと対応して、CはDと対応して、DはBと対応して……みたいに「ペア」じゃなくて「トリオ」になることはありえないの?

それらの指摘はごもっともです。ですが、完全にこの記事の中で回答しているとそれだけで紙幅が埋まり切るほど難しい内容です。
なので、これらについて補足という形で記述します。

最初の指摘については、このページ[5]が詳しいです。図形的な意味合いを以て、この対応の意味を説明しており、私自身も理解するうえで非常に参考にさせていただきました(後は『天書の証明』という本に記載があったはずです)。

後ろの2つについては、「そんなことはない」というのが答えです。詳述すると時間もページサイズもすごいことになるので省きますが、ちゃんとペア分け(専門用語では対合写像)として機能するように細心の注意が払われています。具体的には
・各4で割って1余る素数pに対して、\(p=x^2+4yz\)を満たすような自然数の組(\(x\),\(y\),\(z\))はすべて、3つあるザギエのルールの条件中、必ずただ1つを使ってある自然数の組(\(x’\),\(y’\),\(z’\))へと変換できる(つまり、2つ以上の条件に該当する組もない)。
・上記の(\(x’\),\(y’\),\(z’\))は\(p=〖x’〗^2+4y’z’\)を満たす。
・上記の(\(x’\),\(y’\),\(z’\))を、もう一度各ザギエのルールを使って変換すると、元の組(\(x\),\(y\),\(z\))に戻る。
ということが証明できます。特殊な知識は不要(ほぼ高校数学の範囲で完結します)なので、興味のある方はやってみてください。

 

 

[3] ちゃんと言うと、2つ(ないしは1つ)の「組」からなる非順序対ということになります。

[4] 経緯をたどるとどうだかわかりませんが、この記事内では一応「ザギエのルール」と統一して呼びます。

[5] https://wakara.co.jp/mathlog/20210224

 

 

 

4.後半戦:余りがただ1つ出ることを示す


さて、ではここからペアづくりでただ1つ自分自身とペアになる組(以下「余り」と呼称する)が出ることを示してみましょう。
先にこの先のロードマップを示して道筋を確認します。

 

[ここからやること]
STEP1:「余り」が出るとしたら条件2でペアになった組だけであることを示す。
STEP2:「余り」は必ず1つ以上出ることを示す。
STEP3:「余り」が出るとしたらただ1つだけであることを示す。

 

この3つが言えれば、ペアづくりでただ1つの「余り」が出る、と言えそうです。
では、始めて行きましょう。

 

 

 

STEP1:「余り」が出るとしたら条件2でペアになった組だけであることを示す。


証明したい事柄を考える前に、まずはこんな問いを考えてみましょう。

 

[問題]
「余り」は、ザギエのルールにあった3つの条件のどれを満たしているだろうか?

 

再び、p=13の時の例に登場してもらいましょう。

A)\(x=1\),\(y=1\),\(z=3\)

B)\(x=1\),\(y=3\),\(z=1\)

C)\(x=3\),\(y=1\),\(z=1\)

今回注目したいのは、それぞれの組が、条件1~3のうちどれを満たしているかということです。順に確認していきましょう。

・Bの組は条件1を満たし、このルールによってCの組と対応します。

・Cの組は条件3を満たし、このルールによってBの組と対応します。

・Aの組は条件2を満たし、このルールによって自分自身たるAの組と対応します。

よって、\(p=13\)のときは、条件2を満たす組が「余り」に該当するようです。

他にもいくつかのpで検証してみてください。例えば\(p=17,29\)などはどうでしょうか?実はこれらも不思議なことに、条件2を満たす組が「余り」になっています。

 

これらのことから、(存在するならば)「条件2を満たす自然数の組」が「自分自身と対応する組」である可能性が高いような気がします。結論から言えばこれは正しいです。

実は「条件1を満たす組」は「条件3を満たす組」と必ず対応することが証明できます。そして、複数の条件を満たす組は存在しない[6]ことから、「自分自身と対応するとしたら条件2を満たす組しかありえない」と言うことができるのです。

以下に証明を記載しますが、やや難しいので、読みたくないなと思ったらスキップしてもらって構いません。

 

[STEP1の証明]
組(\(x\),\(y\),\(z\))が条件1を満たすとすると、ザギエのルールによって(\(x+2z\),\(z\),\(y-x-z\))という組とペアになる。xもzも自然数であるから、明らかに\(x+2z>2z\)が成立する。
よって(\(x+2z\),\(z\),\(y-x-z\))は\(x\)成分が\(y\)成分の2倍より大きいため、条件3を満たす。
また、組(\(x\),\(y\),\(z\))が条件3を満たすとすると、ザギエのルールによって(\(x-2y\),\(x-y+z\),\(y\))という組とペアになる。zは自然数であるから、\(x-2y<(x-y+z)-y\)を明らかに満たす。よって、条件1を満たす組は条件3を満たす組としか対応しえないため、複数の条件を満たす組があり得ないのであれば、自分自身と対応する組は条件2を満たしている必要がある。

 

ともあれ、これで第一段階突破です。

 

 

 

STEP2:「余り」は必ず1つ以上出ることを示す。


実はこっちの方がSTEP1より簡単です。なぜなら、具体的にその「余り」が何であるかを挙げることができるからです。
pを4で割って1余る素数とするなら、何かしらの自然数kが存在して\(p=4k+1\)と書けるはずです。この\(k\)を用いて(\(1\),\(1\),\(k\))と書ける組は\(p=x^2+4yz\)を満たし、かつ自分自身とペアになります。

 

 

[STEP2の証明]
(\(1\),\(1\),\(k\))が\(p=x^2+4yz\)を満たすことは、実際に\(x=1,y=1,z=k\)を代入すれば明らかである。
(\(1\),\(1\),\(k\))は\(1-k<1<2×1\)を満たすから、条件2を満たす組である。つまり、この組は条件2を満たす組のルールによって対応づけがされるが、下記の通り、対応する組は自分自身となる。
対応する組のx成分:\(2×1-1=1\)
対応する組のy成分:\(1\)
対応する組のz成分:\(1-1+k=k\)

 

 

 

STEP3:「余り」が出るとしたらただ1つだけであることを示す。


さて、いよいよ最終段階です。

STEP1で示したことから、条件2を満たす組しか「余り」にはなりうらないことを示します。定理の条件や整数問題でよく使う手法を総動員する証明なので、簡単ではないと思います。方針としては「余り」になるなら\((x,y,z)=(2y-x,y,x-y+z)\)ということだよね→するとxとyが等しいね、という流れからどんどんあり得る状況を絞っていくものですが……ひとまず記載してみましょうか。

[STEP3の証明]
\(p\)は\(4\)で割って\(1\)余る素数であるとする。\(p=x^2+4yz\)を満たす自然数の組(\(x\),\(y\),\(z\))のうち、条件2を満たすものは必ず1つ以上存在することがSTEP2より分かっている。このうち、「余り」になるものは\((x,y,z)=(2y-x,y,x-y+z\))を満たす組である。各成分を比較することで、\(x=2y-x\),\(y=y\),\(z=x-y+z\)を得るが、これをさらに整理することで、\(x=y\)を得る。つまり、「余り」となりうる組は(\(x\),\(x\),\(z\))という形をしたものに限られる。これを\(p=x^2+4yz\)に代入し、整理して、以下の式を得る。

\(p=x(x+4y)\)

ここで、yは自然数であるから、\(x+4y≥5\)が成り立つ。もし、\(x\)が\(2\)以上の自然数であったとすると、左辺は素数だが右辺は合成数ということになり矛盾する。

よって、\(x\)は\(1\)しかありえない。このとき、\(z\)は適当な自然数\(k\)を用いて\(p=4k+1\)と書いた時の\(k\)に等しい。

つまり、「余り」になる組は(\(1\),\(1\),\(k\))しかありえず、実際にこれはSTEP2で検証した通り\(p=x^2+4yz\)を満たす。

 

これによって、「ペアづくりでただ1つの「余り」が出る」と言えました。
そして、この主張から序盤にあった「ブリッジ」も正しいことが分かります。

[2つの主張のブリッジ・再掲]
pが4で割って1余る素数であるならば、\(p=x^2+4yz\)を満たすような自然数の組(\(x\),\(y\),\(z\))は奇数組存在している。

これが正しければ、最初に確認した通り、フェルマーの二平方和定理も正しいということが分かります。

[フェルマーの二平方和定理・後半部分・再掲]
pが4で割って1余る素数であるならば、\(p=n^2+m^2\)となるような正の整数n,mが存在する。

この記事でやりたかったことはこれですべて完了です! お疲れ様でした!

 

[6] 前節の【補足】で触れていますが、今は「そうなんだ」ぐらいでいいです。

 

 

5.おわりに


 

【前編】、【後編】共に7000字強の文章となりました。併せれば15000字くらいの文章になります。ここまで読んで下さった方がいらっしゃったとするならば、それだけで非常に嬉しいことです。

この記事を通して言いたかったのは、大学入試問題には豊かな数学的背景があるということです。

勿論、問題のための問題、入試のための勉強も、その意義を否定することはできません。でも、それはまるで「大きなパズルの1ピースだけを見て、「これはこんな形をしているなあ」とつぶやいて満足する」ことのようです。折角ならピースを集めてパズルを完成させた方が面白くはないでしょうか?

 

この記事が読んでくれた人にとって、大学入試の問題の背景を考える契機になってくれれば幸いです。ここまでお付き合いくださりありがとうございました。

 

そういえば今年も暮れになりますね(※本原稿は2023年12月に作成されました)。

思えば今年1年、数学にまつわることの記事ばかり書いていたような気がします。来年もこの手の話は続けていけたらいいなと思う反面で、また違った内容で皆さんに「考えることの面白さ」「知ることの楽しさ」を伝え続けていこうとも考えております。

来年もまたよろしくお願いいたします。

 

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【記事監修者】塾長 柳生 好春


1951年5月16日生まれ。石川県羽咋郡旧志雄町(現宝達志水町)出身。中央大学法学部法律学科卒業。 1986年、地元石川県で進学塾「東大セミナー」を設立。以来、37年間学習塾の運営に携わる。現在金沢市、野々市市、白山市に「東大セミナー」「東進衛星予備校」「進研ゼミ個別指導教室」を展開。 学習塾の運営を通じて自ら課題を発見し、自ら学ぶ「自修自得」の精神を持つ人材育成を行い、社会に貢献することを理念とする。

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