大学の研究を知ろう 金沢大・大阪大共同研究~バイオと情報の融合~ - 金沢市・野々市市・白山市の塾なら東大セミナー
2025.09.30保護者通信

大学の研究を知ろう 金沢大・大阪大共同研究~バイオと情報の融合~


皆さん、こんにちは。東進衛星予備校金沢南校の吉堀です。

前職は新聞記者で、石川、富山で働いていました。

金沢大学や富山大学をはじめ、多くの大学では、所属する研究者の目覚ましい成果を「プレスリリース」として発表しています。その中から、個人的に「面白いな」と思ったものを紹介したいと思います。大学での学びを感じる機会になればと思います。

まずは、金沢大学の2025年8月28日のプレスリリース[1]から。

バイオと情報を融合した解析技術で、がん特異的代謝の役割の一端を解明!

金沢大学と大阪大学との共同研究で、バイオテクノロジーと情報技術を融合することにより、がん細胞のエネルギー代謝の流れを計測し、コンピュータ上で正確に予測できる技術を世界で初めて開発しました!

●どういうこと?

●もうちょっと詳しく

●おわりに

●どういうこと?

生体内で行われる化学反応を代謝といいます。細胞は、栄養源を分解してエネルギーを得ており、目的に応じて複数の反応経路を適切な比率で使い分けて生きています。

がん細胞は活発に増殖するため多くのエネルギーを必要としますが、正常な細胞とは異なる「効率の悪い」代謝経路を使うことがわかっていました。しかし、その理由や詳細は明らかになっていませんでした。

金沢大学や大阪大学などでつくる研究グループは、生物工学の分野で用いられてきた、代謝を「実測」する手法と、情報科学分野の代謝を「予測」する解析法を組み合わせ、がん細胞の解析に特化した手法を開発しました。

その結果、がん細胞が特異的に使うエネルギー効率の低い経路には、代謝熱の発生を低く抑える役割があるとわかりました。もしもがん細胞が、自分たちの増殖に必要なエネルギーを通常細胞と同じ「効率の良い」代謝経路で得ようとすると、熱が発生しすぎてオーバーヒート状態になってしまうのです。がんが特異的な代謝を行う理由の一つは「熱さ対策」だったのです。

この知見から、代謝系をターゲットにした、がんの新しい治療法が生まれるかもしれません。また、この解析技術をがん細胞以外に応用したら……。免疫細胞やiPS細胞、抗体生産細胞など、医学、生物工学分野で重要な細胞への理解が深まると期待されます。
 

●もうちょっと詳しく

新しい解析法に利用されているのは、生物工学の分野で用いられてきた代謝解析技術「\(^{13}\mathrm{C}\)代謝フラックス解析法」と、コンピュータ上で代謝を予測する「フラックスバランス解析法」です。

\(^{13}\mathrm{C}\)代謝フラックス解析法は、炭素の「安定同位体」・\(^{13}\mathrm{C}\)を使う解析法です。
ちょっと化学の話になります。原子は「陽子」と「中性子」からなる原子核と、その周りにいる「電子」で構成されます。原子番号が同じで質量数が異なる原子どうしを「同位体」といいます。同位体どうしは陽子の数は同じですが、中性子の数が異なります。安定同位体はその名の通り、半永久的に安定して存在し、化学的性質もほぼ同じです。
地球上に存在する炭素のほとんどは、質量数12の\(^{12}\mathrm{C}\)。つまり、私たちの細胞に含まれる炭素も、ほとんどが\(^{12}\mathrm{C}\)。そこで、\(^{13}\mathrm{C}\)からなる糖を細胞に代謝させ、細胞内の代謝物が\(^{13}\mathrm{C}\)に置き換わっていく様子を質量分析装置で計測することで、細胞内代謝のフラックス(時間当たり、細胞当たりの化学反応量)を調べるのが、\(^{13}\mathrm{C}\)代謝フラックス解析法です。

フラックスバランス解析法は、コンピュータ上で代謝フラックスを予測します。正確な計算を行うためには、代謝反応を式で記述した代謝モデルや、考慮するべきパラメータの設定が必要となります。

研究グループは12種類のがん細胞の代謝の流れを調べ、その特徴をコンピュータ上で再現するには、代謝で発生する熱を計算に加味する必要があることを見出しました。これにより、がん細胞のエネルギー代謝状態の数値化や、コンピュータ上でのがん細胞の代謝予測ができるようになりました。このシミュレーションによって、エネルギー獲得効率の低い解糖系には、代謝熱の発生を低く抑える役割があることが分かったのです。
 

●おわりに

研究は、大阪大学大学院情報科学研究科岡橋 伸幸准教授、松田史生教授ら(バイオ情報工学)と金沢大学がん進展制御研究所 髙橋智聡教授、河野晋助教らの共同です。髙橋教授と河野助教はフラックス解析に最適な培養系の確立に貢献しました。
生物、情報、化学に工学……さまざまな大学や機関で研究する先生たちが、分野を横断して共同で取り組んだ結果です。

興味がありましたら、金沢大学や大阪大学のホームページで見てみてください。
それでは。

[1] https://www.kanazawa-u.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2025/08/20240828_takahashi_re.pdf (2025/9/23確認)

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【記事監修者】塾長 柳生 好春


1951年5月16日生まれ。石川県羽咋郡旧志雄町(現宝達志水町)出身。中央大学法学部法律学科卒業。 1986年、地元石川県で進学塾「東大セミナー」を設立。以来、38年間学習塾の運営に携わる。現在金沢市、野々市市、白山市に「東大セミナー」「東進衛星予備校」「進研ゼミ個別指導教室」を展開。 学習塾の運営を通じて自ら課題を発見し、自ら学ぶ「自修自得」の精神を持つ人材育成を行い、社会に貢献することを理念とする。

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